ゲノムが導く新しい医薬品開発の分野

広範な研究分野を創出

ヒトゲノム計画で解析された遺伝子情報を活用する研究は、ポストゲノムと呼ばれています。その中心となっているのがヒトゲノムの情報を基に病気や病態に効果を示す画期的な医薬品をつくり出すゲノム創薬です。

現在、ポストゲノムには、①cDNA解析、②バイオインフォマティクス、③プロテオーム解析という3つの方向性が示されています。

「cDNA解析」は、細胞分裂の際に遺伝子が作り出すコピー(cDNA)を使用して、DNAそのものの遺伝子機能を解析しようというゲノムの基礎的研究です。

「バイオインフォマティクス(生命情報科学)」は、DNA配列、アミノ酸配列、タンパク質立体構造などの情報をデジタルデータ化して、コンピュータ上で医薬品の開発を行うための研究です。

遺伝子は、A(アデニン)、G(グアニン)、T(チミン)、C(シトシン)という4つの塩基の組み合わせで表され、その配列が多様に存在していますが、その塩基の配列の違いから人の生命現象を解析、分類、収集するのが、この「バイオインフォマティクス」という学問です。

バイオインフォマティクスは生物学(Bio)と情報学(Informatics)の合成語であることから、生物情報科学とも言われており、IT技術の進歩とともに急速に発展しました。

この背景には、生命現象に関連する情報を蓄積するためのデータベースの構築や、遺伝子のスクリーニングなどは、手作業では莫大な時間がかかるため、高性能のコンピュータが欠かせない、という事情があります。すなわち、バイオインフォマティクスは解析作業を瞬時に行うコンピュータの存在なくして存在しない学問といえます。

バイオインフォマティクスの根幹となる遺伝子情報は、国立遺伝学研究所が運営するDDBJ、欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)のEMBL、米国の国立バイオテクノロジー情報センターのGemBankという3つのデータベースの連携で構築された「国際塩基配列データベース」で提供されており、登録されている塩基数は200億を超えています。

新しく塩基配列が発見された場合には、速やかにデータベースに登録することが義務付けられており、最新の解析結果が世界中で共有できるシステムとなっています。

「プロテオーム解析」は、病気のヒトの細胞と、その人が健康なときの細胞の中のタンパク質(プロテオーム)の解析比較を行うことで、病気の発症に関係したタンパク質を発見しようという研究です。

ゲノム創薬を実現するためにこれら3つの研究は重要な役割を果たしていますが、その成果の応用分野として、①SNP(スニップ)と②DNAチップと呼ばれる分野の研究があります。

DNAの鎖が4つの塩基で構成されていますが、この配列の一部に個人差があることがわかっており、この変異部分をSNP(スニップ)といいます。個人の特性や体質の違いはこのSNPによって決定され、個人や民族特有の病気の発症にもSNPが関与していると考えられており、ゲノム創薬の基盤を支える重要な研究です。

二番目のDNAチップとは、シリコンチップや硝子盤の上に整列、固定された一本鎖DNAのことです。簡単にいえば、SNP解析に伴う遺伝子の鑑定や病気に関連する遺伝子などが研究しやすいように処理したDNAの標本です。

このように、ゲノム創薬は、今後も新たな研究分野を創出しながら、進展していくと考えられます。