バイオテクノロジーと遺伝子治療

創薬をリードする遺伝子研究

DNAの切断・連結あるいは入れ替えにより、生物の性質や成長をコントロールするバイオテクノロジー(遺伝子工学)は、当初、発酵醸造産業や植物の生産性を向上させるために活用されていました。

その過程で、増殖力の旺盛な大腸菌などの細胞に有効な遺伝子を組み込むと、短時間で大量に遺伝子が生産できることが発見されました。このにより、化学合成では不可能だった薬を微生物に作らせる技術が生まれました。

バイオ医薬品には、糖尿病治療のために人のインスリンから作ったヒトインスリン、B型・C型肝炎の治療に重要な役割を果たすインターフェロンなどがあり、特殊な疾病の治療薬の開発にバイオテクノロジーが活用されています。

バイオテクノロジーの応用研究の過程で、遺伝子レベルの異常が引き金となって多くの病気が発症することもわかり、遺伝子治療が生まれました。

遺伝子治療は、病気の原因となる異常な遺伝子を特定することから始まります。そして、人工的に作り出した正常な遺伝子をベクター(DNAを増幅・維持・導入させる核酸分子)に乗せて異常な部位に運び、失われた細胞の機能を回復させます。

世界初となる遺伝子治療は、1990年、体に必要な特定の酵素を作る遺伝子が先天的に異常なため、重症な免疫不全を起こすADA欠損症のアメリカの少女(4歳)に行われました。この少女は遺伝子治療によって正常な遺伝子を補充することができたため、酵素が増え無事に病気を治療することができたのです。

現在、遺伝子治療が目指しているのは、その発症が遺伝子と深く関わっているとされるがんの治療です。既に、正常な遺伝子をがん細胞に投与すると、がんの増殖を抑えることができることが確認されています。

日本国内の遺伝子治療の対象は、安全性を配慮して、まだまだ限定的ではありますが、肺がん、食道がんをはじめ、心臓病などの血管再生などで良好な結果を得ています。アメリカでは副作用が少ない治療法として、遺伝子治療は広く行われており、関節リウマチやコレステロール血症などの慢性疾患にも活用されています。